カイメンはどんな生物かと聞かれて思い浮かぶのは、小学校や中学校などで行う磯採集で見た海産のイソカイメンなどではないでしょうか。最近の分子系統学な分類では、カイメン動物は4つの綱に分けています。ほとんどの主が属する「普通カイメン綱」、上皮の細胞は細胞質が繋がっている「ガラスカイメン綱」「石灰カイメン綱」「ホモスクレロモルフ綱」の4つです。 海綿とは言え、淡水に住む種類も多数います。日本の琵琶湖などでも過去に10種類以上の淡水性のカイメンが記録されています。 私達は、以前、特に1960-80ごろヨーロッパで観察的な研究が盛んに行われていた「カワカイメン」の無性生殖系である「芽球からの個体形成」では、数千個の幹細胞集団から約1週間で機能的な小さなカイメン個体が形成されるという非常にユニークで研究に適していることに着目して、研究を進めています。スタートが幹細胞集団ですから、個体を形成する分化細胞の全ては幹細胞から分化したはずですから、幹細胞分化の仕組みや過程を解析することに適しているし、幹細胞を枯渇させては体を成長させられないので、幹細胞の自己複製を調節しながら行っているはずです。 |
多くのカイメンは有性生殖系と無性生殖系をもっています(右図)。ほとんどの種類で、無性生殖系にも形態形成を行えるシーズンがありますが、私達の用いている淡水性のカワカイメンは、例外的に通年無性生殖で個体を形成することが出来、研究に適しています。 | Funayama et al Dev. Growth Differ. 47:243-253. 2005より改変 |
無性生殖について説明すると、ある程度育ったカワカイメンは、体の組織中に多数「芽球」というものを形成します。直径約0.5mmほどの芽球の殻の中には、数千の休止した幹細胞のみが入っています。芽球からの個体形成は、通常は自分の組織由来のinhibitorによって抑えられていますが、高温や乾燥等により個体が死滅、組織がなくなってinhibitorが芽球の周りから除かれると、芽球からの個体形成が開始します(この個体形成を、germination, またはhatching from the gemmuleと言います。)つまり、環境が悪くなり自分本体が死滅した時に、自分のクローンを形成するのがこの無性生殖の役割だと考えられています。補足ですが、カワカイメン以外の種では、芽球の中の幹細胞はあるシーズンのみ活性化することが出来るので、休眠している状態です。
左はマツモトカイメン(淡水性のカイメン)の芽球は直径が0.8-1 mmほどあり、大きめで、芽球の様子が分かりやすいので示します。上下逆さまにひっくり返したところで、この図で上が石などについている部分(カイメンの体の下部分)です。
右は私達の用いているカワカイメンの芽球の拡大。
直径は0.5 mmほどで小さめです。組織の間にこの様に多数形成されます。
芽球からの個体形成は、右図の様に、芽球の中から休眠から目覚めて活性化した幹細胞が遊走してきて、まず分化して袋状構造を作り、その中で幹細胞が細胞分裂または、様々な体を構成する細胞に分化することを繰り返して、約7日ほどで小さな個体を形成します。網目状に見えているのは水が流れる水管で、小さなカイメンでは1本、体が大きく成長すると複数本立つこともある出水孔に繋がっています。カイメンはこの水管を通じて体の外からの栄養物を得ています。
カイメンの体は古典的に主に細胞形態で分類されて知られているだけでも10種類以上の細胞から成り、私達の遺伝子発現による解析などからさらに多種類の細胞種があることが明らかになってきています。 詳しくは日本語の総説、 英語の総説を参考にしてください。 DOI:10.1007/s00427-012-0417-5. |
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